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仕事の相棒

画家から写真家に転向して40年近くになるが、その間に使用してきたカメラはメーカー名を挙げるだけでも、キャノン、ニコン、コンタックス、ミノルタ、ペンタックス、そして現在の富士フイルムだ。ペンタックスからはデジタルカメラで、ペンタックスのデジタルをメインにする前はキャノンが最初でオリンパスのコンパクトデジカメも使っていた。そうそうリコーのコンデジも愛用していた。一番長く使ったのはフィルム時代のコンタックスで、1985年イタリアのメストレにあるカメラ店で「CONTAX50周年」を記念する金色のシンクロキャップが付いているボディを見つけた。その時買ったばかりのNikon FEに85mmのレンズを持っていて、若い店主にこれと交換できないかと聞いてみたらCarl Zeiss Distagon 28mmF2.8付きで素取り換えしてくれた。聞けば、Contaxはあまり人気がなくNikonの方が売れるからと言っていた。

 早速、ヴェネツィアに戻り、コダクローム64を装填して撮り歩き、帰国して現像されたポジを見てびっくりした。発色、コントラストが比較にならない素晴らしさだった。現在のニコンのレンズはかなり素晴らしいものだったが、当時ではCarl ZeissのTスターコーディングはハッセルブラッドのレンズを見ても納得の最高峰だった。すぐに20mmから300mmまでそろえたニコンのレンズやカメラ数台をContaxに切り替えた。銀座の鳩居堂ビルの上にあったコンタックスのショールームに通いいろいろなレンズを試写させてもらい愛用のレンズを5,6本揃えた。カメラも全機種を購入した。フイルムの手巻きから自動巻き上げになり、愛用する機種も変わっていったが、一番長く愛用したのは167MTとST,RXそしてAriaで特にSTとRXが一番の愛機だった。Contaxでイタリアを撮り歩いていた時代は仕事が最も充実した時代でもあった。大手出版社の月刊誌の特集取材の仕事は写真を豊富に入れた著書も次々と出せた。現在、某所で開催中の写真展に展示している写真の7割くらいはこの時代に撮影されたものである。デジタル化するために現在愛用している富士フィルムのカメラとカール・ツァイスのマクロレンズで複写した作品である。

 現在のデジタルカメラは少なくとも3,4年毎に買い替えを迫られるように仕組まれているかのようで、2018年にX-T3を購入したのだが、今月、新しく出たX-T5を2台購入した。奇数が好きだからT1, T3と使いT4を飛ばしてT5となったのだが、これが出ていなければ他社のフルサイズになっていたかもしれない。それにしても、フィルム時代のカメラであれば10年経っても買い替える必要はない。Leicaなんぞ100年でも使える。しかし、デジタルは数年で陳腐化するようで数十万円という大きな出費を繰り返すことになる。このX-T5も長くて5年後には買い替えになるだろう。そうなるように迫られるような仕組みだろう。ただ、人生を考えるとその時に買い替えるカメラが最後のカメラになると思う。写真を始めた頃のようにレンズ2本、カメラ2台だけに絞り、最高のクオリティを引き出せる機種を選ぶだろう。果たしてその頃はどんな写真を撮るのかな?それが一番の問題だが。もしも、その頃、まだフィルムというものが製造されているのならば、往年のLeica M3とContax IIだけになるか、それともこれらに代わるその時点での最先端カメラになるか、ま、先のことは考えないでおこう。

 それにしても面白いもので、フィルム式カメラの時代、カメラは10年でも20年でも使い続けることができたが、フィルムは24回、36回、シャッターを切れば新たにフィルムを交換しなければならない。半月ほどの取材で200本近いフィルムを用意する。それがデジタルになると記録するカードを何度も使いまわせる利点がある。時間的にもフィルムと比べれば仕上がりを得るのはデジタルであれば撮ったその場で確認できるのであるから、こんな凄いことはフィルムの時代には考えられなかった。さらに、フイルムの時代はカラーフィルムとモノクロフィルムを別々にそろえなければならなかったが、デジタルならばカメラの中でどちらにも変えて撮影できる。かつて夢に見ていたことが可能になった。シャッター速度やレンズの絞りくらいしか変えられなかったことが、デジタルカメラならば感度まで自由に変えられる。凄い!デジカメを使い始めた頃は「デジタルは及ばざるが如し」と冗談を言っていたが、今では利便性を甘受しているのだ。しかし、「初心」は忘れてはならない。あのフィルム式カメラ、マニュアル操作で鍛えたからこそ今の自分があるのだと。

優れたカメラには思想がある。ライカ、コンタックスがそれだ。技術を真似ることはできるが、思想を真似ても真実にはならない。どんなに高性能なカメラであっても思想がないカメラに魅力を感じない。



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