人を撮る
私が本格的に写真を撮り始めたきっかけは後藤田三朗さんという聾唖の写真家と「写真機無音ーカメレオン」という彼の写真展で出会った時で、2台のライカを使っていたが、その彼のアドバイスに従い、ちょうど発売された2台のNikon FE228mmと85mmのレンズを組み合わせて撮り始めた。彼と一緒に街を撮り歩いていると聾唖ゆえに言葉は少ないが香辛料のような刺激がこちらの創作意欲を促進する。しばらくして彼は郷里の岡山に戻ったが時折手紙のやり取りはあった。ただ、彼からの連絡が途絶えてから、たまにどうしているかなと思いだしてみることはあったのだが、今、この文を書いている時に改めて検索してかれが2012年4月1日に他界していたことを知った。私より2歳若い1954年7月5日生まれだから、還暦前に他界してしまったのはまことに残念。
また、カメラ2台、28mmと85mmのレンズ2本という備えでは松田二三男氏の著書「傑作への早道25」という本でも多くを学んだ。そして、何よりも画家を志していた時に見出した自分の絵心と構図などの画面構成の感覚を大事に、且つ、瞬時にイメージし、シャッターを切る時にはすでに画は完成していることを意識している。特に風景写真などはファインダーを覗きながらあれこれ考えることはない。光の変化は刻々と揺れ動くもので、しばしば次に来る瞬間を想像して撮ることもある。むしろ、先を読みながらが大事だろう。
写真撮影のもうひとつの楽しさははやり人物撮影だ。ただし、モデル撮影や冠婚葬祭や記念写真的なものには興味ない。ストリートスナップに入り込む人物や風景を舞台装置としてそこに現れ、表現する点景人物を好むので、これまで何度も開催してきたイタリアの写真展のタイトルも「イタリア、人景色」である。そして、たまに撮りたくなる人物に出会う。その時には遠慮なく、撮らせて下さいとお願いする。最近では生まれ育った滝野川を訪れた時に、たまたま出会ったお豆腐屋のご主人。その時に撮影したを写真島平新聞の連載コラムに掲載したのだが、その写真と掲載紙を届けるために昨日、また滝野川へ行き、お店を訪ねた時に、今度は奥様も一緒に撮らせて頂きた。お二人ともとても素敵な笑顔で、私はこういう写真が撮れた時に一番嬉しくなる。
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